GASTR DEL SOL – Upgrade & Afterlife


(Drag City/LP×2)

完璧。2人の蜜月はついに実を結んだ。1曲目「Our Exquisite Replica of Eternity」は荘厳なドローンに、鋭かった頃のKevin Drummによるプリペアドギター・ハーシュノイズが切り込みひとしきり暴れ回る。その後、引き延ばされた管楽器が加わりドローンが多層的に循環する。そして突然、大仰な映画音楽調のサウンドへ転じることで切断が生じるという、O’Rourkeが得意とする手法。これを冒頭に持ってくるあたりに2人の気合いを感じる。2曲目「Rebecca Sylvester」ではアコギ弾き語りに、過去にセッションを共にしているGunter Muellerの静かな即興が絡み付く。3曲目「The Sea Incertain」は隙間の多いピアノ演奏を、微細な電子ノイズとmats gustafsonらによる管楽器がじわじわと侵蝕する曲。4曲目「Hello Spiral」は冒頭でP16D4のRalf Wehowsky/RLWのテープによるコラージュノイズと、Muellerによるノイジーな電気増幅パーカッションがひとしきりハーシュに暴れる。これが短いがORGANUM&TNB並の高密度ノイズ。その後ミニマルなアコースティックギターが淡々と反復され、John McEntireのタイトなドラムが加わり、やがて飽和を迎える大作。ミニマルロック的方法論の集大成といった感じ。5曲目「The Relay」はピアノ弾き語りに微弱なサックスが薄い膜のように重なる繊細な曲。
そして小曲を挟んでの7曲目だが、何とJohn Faheyの「Dry bones in the valley (i saw the light come shining ’round and ’round) 」のカヴァー。Faheyの情感豊かなオリジナルの演奏と比較すると、幾分端正な演奏である。その行儀の良さに2人のFaheyへの深い敬意を感じる。穏やかなアコースティックギターのメロディが爪弾かれる前半。ミニマルな反復が繰り返される後半。すなわち「アメリカ的なるもの」と「ミニマリズム」。自己の長年の2つのテーマを解決するために、この曲に目をつけたO’Rourkeは鋭い。後半のミニマルなパートはオリジナルより大幅に拡大されており、ここにO’Rourkeの真意が見て取れる(オリジナルが7分なのに、このカヴァーはその倍近くもある)。さらに驚くべきことに、ミニマルなパートの大幅な拡大にともない、Tony Conradまでも参加させてしまう。ミニマルなアコースティックギターの反復にConradのヴァイオリンによる持続音がゆっくりと重ねられ、ミニマルな反復は静かに昇華してゆく。「Happy Days」における試みはここで再び、これ以上は考えられないくらい完璧な形で実現された。
単なる折衷や装飾ではなく、楽曲に電子ノイズや不定形な音響をぶつけて、溶け合わせるというコンセプト。これこそが音響が装飾として楽曲に収斂されてしまう他のポストロックバンドとの決定的な違いである。GASTRのメイン楽器がアコースティックギターとピアノであったことの意味とは、単純なアコースティック趣味などではなく、生音の響きが音響やノイズをぶつけるうえで効果的であったからではないだろうか。
アメリカーナとミニマリズムの問題や、ドローンによる「循環と切断」などはO’Rourkeがたびたび初期のソロにおいて取り組んでいたテーマである。ゲストのノイズ〜フリー系の音楽家達もO’Rourkeの人脈であろうことは容易に想像がつく。本作は、ややO’Rourkeの問題意識の側に振れた作品だ。過去の数々の試みを総決算し、そして素晴しいカヴァーを収めた名作。この盤に出会えて本当に良かった。96年発表。印象的なジャケット写真はRoman Signerの「Wasserstiefel」(1986)より。

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