HERON – Heron (+Single)


(Arcangelo/CD, 3’CD)

70年リリースの英国フォークの奇跡、必殺の現実逃避盤。トラッドの香りのない、シンプルで美しいメロディが、アコースティック楽器によってどこまでもゆったりと、穏やかに奏でられる。またよく知られるように野外で録音されているので、微細な野外音もそこには聞き取れる。平穏な日向の空気をそのまま封じ込めたかのよう。美しいシンプルなメロディと、生音の響きと、鳥のさえずりなどの野外音。この3つの要素が絶妙のバランスで重なり合い、現実離れした平和なユートピアを奇跡的に実現している。ヒッピーだサイケだコミューンだと言うと、サンドーサの庭にてドロドロに溶解したサイケなアンダーグラウンドを連想してしまうが、個人的にはこういう有り得ないほど蒸留された、平穏な休日の午後のような世界の方が危険だと思う。繊細で薄い膜のような陽光の向こうに幻視されるユートピア。俗世の汚濁から逃避するように繰り返し繰り返し聴き入り、やがて現実に戻れなくなる。(2ndではややロック的な側面が強くなり、このユートピアを幻視させるかのような感覚は薄れる。)
本盤はアルカンジェロ/ユニオンによる至れり尽くせり、最早妄執めいたものまで感じさせる紙ジャケ再発。しかも1stの次にリリースされたシングルを3’CDとして同梱する徹底した仕事である。

Sibylle Baier – Colour Green


(Orange Twin Records/CD)

呟くような歌声にシンプルなアコースティックギターの伴奏。穏やかで優しい人間性が強く感じられるドイツのSSW、Sibylle Baierのプライベートフォーク作品。70年から73年にかけて録音され、当時は発表すらされなかった音源。ちなみに彼女はヴィム・ヴェンダース「都会のアリス」(1973)にも出演している。現実の穢れのなかでは生きられない、自分の小さな世界にて掌にすくいあげた幸福のみで満ち足り、短い一生をそれとともに歩むような…儚くも純粋な強さを持つ音楽である。近しい音楽家としてはやはりNick Drakeが挙げられる。両者とも夭折したという点においても。しかし若くして亡くなった彼女を哀愁やセンチメンタルというような言葉にて回収したくはない。この歌声のなかにある強さにこそ耳を傾けたいと思う。