第五回恵比寿映像祭「ソングス・フォー・レント―実験映像の現在」

そのうちレビューしようと思いながら遅くなったが、第五回恵比寿映像祭で印象深かったプログラム「ソングス・フォー・レント―実験映像の現在」について述べる。このプログラムのプログラマーは、ホイットニー美術館のジェイ・サンダースである。以下、上映順です。

naumanshoe
・ブルース・ナウマン/ウィリアム・アラン – アブストラクティング・ザ・シュー
Bruce NAUMAN/William ALLAN – Abstracting the Shoe
(2min 41sec, 16mm*DVD上映, 1966)
工程を説明する教育映画のように革靴と足型と金属缶が映し出される。ここで展開される作業とは、靴を模して足型に黒いパテを盛ってゆくというもの。そして、最終的にはタイトルの通り、靴の形状を模したオブジェが完成する。初期のナウマンは、ウィリアム・アランとの共作を幾つか制作している。後のビデオ作品にみられるような身体性はここにはまだ存在せず、コンセプチュアルなパフォーマンスを記録した映画となっている。カラー、サイレント。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
・トム・アンダーセン/マルコム・ブロドウィック – ――― ―――――――
Thom ANDERSEN / Malcolm BROADWICK – ――― ――――――― (aka Rock’n’Roll Movie)
(11min, 16mm, 1967)
映像作家として知られるトム・アンダーセンが、マルコム・ブロドウィックと制作したロックンロールについてのフィルム。レコードのプレス工場、楽器店、ジュークボックスなどの映像や、様々なミュージシャンのライブ映像など、同時代の60年代ロックに関わる様々なフッテージが細かくコラージュされる。サウンドトラックも映像と同じく、様々な楽曲のカットアップコラージュによって構成されている。カラー、サウンド。

songforrent
・ジャック・スミス – ソング・フォー・レント
Jack SMITH – Song For Rent
(4min, 16mm, 1969)
この作品のなかでジャック・スミスは、ローズ・ケネディに触発されたという分身Rose Courtyardを演じている。薄暗いスタジオに設けられたセットにはアメリカ国旗が掲げられている。赤い服に身を包み、車椅子に乗って登場したジャック・スミスは、雑多なオブジェ類や日用品を抱えている。彼はそのままの姿で酒をあおり、香水を辺りに吹きかけ、ボロボロのスクラップブックに見入る。そして、ケイト・スミスの歌う「God Breath America」に合わせてアメリカ国旗の下で涙を流す。ローズ・ケネディの不幸なエピソードへの連想や、借り物の歌という不思議なタイトルなど、まるで謎掛けのよう印象を観客に与える、忘れ難い映画であった。カラー、サウンド。

Marcel Broodthaers_La Pluie (Projet pour un text)
・マルセル・ブロータス – ラ・プリュイ(テキストのためのプロジェクト)
Marcel BROODTHAERS – La Pluie (Project pour un texte)
(2min, 16mm, 1969)
本プログラムのなかでも、マルセル・ブロータスのフィルムは特に現代美術寄りの位置にいる。屋外にて椅子に腰掛け、即席の机の上でノートに文字を綴る男。しかし頭上からは雨が降り注ぎ、ノート上のインクは滲んで流れてゆく。最後に男はペンを放り出す。完成されない文章、完成されない行為を記録したコンセプチュアルな作品だといえる。モノクロ、サイレント。

・マルセル・ブロータス – ベルリンもしくは夢とクリーム
Marcel BROODTHAERS – Berlin oder ein Traum mit Sahne
(10min, 16mm, 1974)
劇映画的な画面づくりをしているが、明瞭なストーリのない短編。窓の外の街を眺める少女と、パイプを手にして椅子に座る男。鳥の人形と卵。男は居眠りを始め、少女は植物に水をやり、カーテンを閉める。河上を行く船の汽笛と、アコーディオンの音楽が流れる。やがて人々の話し声が空間を満たす。男は目を覚ます。少女は食事を運んでくる。男は眼鏡にバターを付けて、そのまま新聞を読む。再び河上を行く船の汽笛と、アコーディオンの音楽が流れる。奇妙にゆったりとした空気感が印象的である。彼の他の作品と大きく異なり、劇映画的な作品なのが意外だった。カラー、サウンド。

・マルセル・ブロータス – La Lune
Marcel BROODTHAERS – La Lune
(3min, 35mm, 1970)
虫眼鏡越しに文字や月面地図を映し出す。そこに文字が綴ってゆくが、文字はフィルムの逆回転によって消される。『ラ・プリュイ』と類似したコンセプトを持つ小品。カラー、サイレント。

・マルセル・ブロータス – ムッシュー・テスト
Marcel BROODTHAERS – Monsieur Teste
(2min, 35mm, 1974)
ゆっくりと左右に首を振る、機械仕掛けの中年男の人形。この人形を椅子に座らせて新聞を読むポーズをとらせる。人形は相変わらず首を振る。やがてカメラも首の動きにあわせて、ゆっくりと左右にパンする。ユーモラスな小品である。カラー、サイレント。

・マルセル・ブロータス – 永遠の1秒(シャルル・ボードレールによる着想)
Marcel BROODTHAERS – Une seconde d’eternite (D’apres une idee de Charles Baudelaire)
(1sec, 35mm, 1970)
一秒間だけ文字が映写されるという、現代美術家らしいコンセプチュアルな映画。映写される文字は「MB」。モノクロ、サイレント。
以下のリンクでインスタレーション版を観ることができる。
http://www.macba.cat/media/broodthaers/broodthaers.html

・エリカ・ベックマン – ヒット・エンド・ラン
Ericka BECKMAN – Hit and Run
(9min, 8mm*BD上映, 1977)
暗闇のなかで素振りをする男のイメージと、走る(逃げる?)女のイメージが多重露光で合成される。また、後半では走る女のイメージと、ポーズを取る女のイメージが画面の左右で多重露光によって合成される。映画における複数のイメージの関係性を探るというコンセプトを持っているようだが、多種多様なコラージュが続くので、小難しい印象はなく、リズミカルなサウンドと相まって、意外と楽しめた。カラー、サウンド。
以下のリンクで全編を観ることができる。
http://www.erickabeckman.com/Hit_and_Run.html

・ジェームス・ネアーズ – 風を待つ
James NARES – Waiting for the Wind
(8min, 16mm, 1982)
手持ちカメラで、屋内のベッドで眠る男の姿を撮影する。そこに激しい風の音が割り込み、カメラが激しく揺れる。その激しい風によって室内がメチャクチャになる…という習作的な作品。カラー、サウンド。恐らくオリジナルは8mm。

・マイケル・スミス – アウトスタンディング・ヤングメン・オヴ・アメリカ
Michael SMITH – Outstanding Young Men of America
(9min, Video*BD上映, 1996)
“Outstanding Young Men of America”の候補に選ばれた、冴えない中年男が一人で自宅を飾り付け、ミラーボールまで設置してパーティーを催すというコメディ。皮肉に満ちた作品であり、まるで自分がバカにされているような気がして心が痛い。カラー、サウンド。BGMはビーチボーイズ。

・ライダ・ラートスンディ – 天国という名の部屋
Laida LERTXUNDI – The Room Called Heaven
(11min, 16mm, 2012)
断片的なシークエンスによって構成される、明瞭なストーリのない映画。水をかけられる男、踏切の横にて佇む女、荒野に立つ男、ピアノを弾く女、多重露光で合成された海と扉のイメージなど。環境音とサウンドトラックの組み合わせに何らかのコンセプトがあるようだが、よく理解できなかった。カラー、サウンド。

・ルーサー・プライス – ディッピング・ソース
Luther PRICE – Dipping Sause
(6min, 16mm, 2005)
個人的な意見だが、このプログラムで最も重要だと思えた作品は、ジャック・スミスのフィルムと、このルーサー・プライスの3つのフィルムだった。基本的にルーサー・プライスは、ファウンドフッテージによってフィルムを制作する作家である。彼のファウンドフッテージの取り組みには、政治的・社会的なコンセプトが含まれているように思えるが、それにも況して重要なコンセプトになっているのは、やはりフィルムのマテリアル性への執着だろう。なので、その上映には細心の注意が必要であるらしく、一旦インターバルを挟んで、準備を整えてからの上映再開となった。
まず本作は、児童向けの教育映画から引用されたと思われるフッテージを使用している。そのイメージとは、壁に掛けられた絡繰りが連動して、最終的に正装の男がプールに落ちたり、パイを投げつけられたりするというユーモラスなものである。そのフッテージの合間に、料理をする男女のフィルム(ネガポジ反転されている)が効果的に配置される。サウンドは接触不良的なノイズであるが、これは恐らく光学サウンドトラックに対するダメージによるものだろう。モノクロ、サウンド。

price-inkblot
・ルーサー・プライス – インクブロット#44-アクア・ウーマン
Luther PRICE – Inkblot #44: Aqua Woman
(5min, 16mm, 2009-2010)
本作では裸の女性のフッテージや、海を撮影したフッテージなどが使用されているようだ。しかし、これらのフッテージはあくまで一次的な材料に過ぎず、その上に直接的に執拗なペイントを施すことによって、この作品は制作されている。本作について「ブラッケージが既に似たような事やっていただろう?」と批判する事は簡単だが、それは手法の類似を批判するだけの不毛な言葉である。問題はフィルムに直接的に手を加える事によって、どのような映画的イメージが生産されたのかという事に尽きるだろう。本作は、抽象的なイメージの混濁のなかで、朧げに把握することができる幽霊的な女性のイメージを生産している。本作の他にも『Inkblot』シリーズとして同様のフィルムを多数制作しているようだ。サウンドはやはり接触不良的なノイズであるが、元々のフッテージの音声も僅かながら聴き取る事が出来る。カラー、サウンド。(上記スチルは別のシリーズナンバーのもの。)

・ルーサー・プライス – アフター・ザ・ガーデン-ダスティ・リケット
Luther PRICE – After the Garden: Dusty Ricket
(7min 30sec, 16mm, 2007)
本作では、文化人類学的な記録映画から引用されたと思われる、アフリカの部族の母子のフッテージが使用されているようだ。しかしそのイメージは、極一部しか拾い上げる事が出来ない。この『After the Garden』シリーズは、フィルムを地中に埋めて、元々のイメージが記録されているゼラチン層に、バクテリアによる崩壊を発生させる試みである。この微細な崩壊は、元々のイメージの大部分を消失させる。それによってスクリーン全面に、びっしりと無数のひび割れが生じたような、殆どモノクロの抽象的イメージが生産される。この微細な崩壊の痕跡が生み出す運動は、豊穣な映画的経験を観客に与える。サウンドはやはり接触不良的なノイズであり、バクテリアは光学サウンドトラックにも大きなダメージを与えているようだった。カラー、サウンド。

・マイケル・ロビンソン – ライン・ディスクライビング・ユア・マム
Michael ROBINSON – Line Describing Your Mom
(5min 50sec, DV*BD上映, 2011)
ダンスの振り付け、水面上を走る炎、廃墟のなかの電話機などの不明瞭なイメージが重ね合わされ、激しいフリッカーを織り交ぜながら構成される。言語化されない自己の無意識を探った映画であるといえるだろう。

・アレックス・ハバード – ヒット・ウェイヴ
Alex HUBBARD – Hit Wave
(4min 35sec, BD, 2012)
ホリゾントスタジオ内で行われる様々なパフォーマンス(喫煙用パイプから吹き出す青い煙、原色のスプレーによるペインティング、オブジェの配置作業など)が乗算レイヤーとして合成される。このデジタル合成によって、フィルムの多重露光とは全く異なった、異様にクリアで多重階層的な画面が生み出されている(撮影はHDで行われている)。また、撮影の際には方向感覚を狂わせるような工夫も組み込まれている。近年のデジタルで制作された映像作品としては新鮮な印象を残す作品。カラー、サウンド。

・ジョージア・サイクリ – コロス
Georgia SAGRI – Choros
(8min 25sec, DVD, 2013)
デスクトップ上に同時に自分の顔の表情をビデオ表示しながら、Wordか何かを使用して手紙を作成するプロセスを記録する。ただそれだけの作品。アイデアはちょっと面白いが物足りない。カラー、サウンド。

本プログラム全体を通して評価するならば、プログラマーは音楽や歌を想起させるフィルム、もしくは流れるような運動性を持ったフィルムを意図的に選出したという印象である。しかし、それにも況して個人的に印象的だったのは、このプログラマーが持っている、現代美術のコンテクストと実験映画のコンテクストを織り交ぜる絶妙なバランス感覚だった。これがもう少し現代美術の側に振れていたなら、マルセル・ブロータスのようにコンセプト先行で映画的イメージの乏しい作品ばかりになっていただろうし、反対にこれがもう少し実験映画の側に振れていたなら、日記映画的な作品が入っていたかもしれない。個人的にはこのくらいの、現代美術と実験映画が重なり合ったバランスは大変好ましい。とても良いプログラムを観させてもらった。

Advertisements