イメージフォーラムフェスティバル2013 Iプロ:シャーリー リアリティーのビジョン

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・シャーリー リアリティーのビジョン – グスタフ・ドイチュ
Shirley — Visions of Reality – Gustav Deutsch
(オーストリア, HD, 92min, 2013)

ドイチュは膨大なフィルムアーカイブから探し出されたファウンドフッテージ(フィルムの断片)を繋ぎ合わせた長編作品で知られる作家である。それは映画が観客に見せてきたイメージについての映画であり、映画史についての映画であり、映画についての映画であった。そのドイチュが、ファウンドフッテージではなく、撮影監督をおいた劇映画的な撮影プロセスによって映画を制作するというのであれば、観に行かない訳にはいかない。バジェットが大きくなる代償にドイチュの実験性が当たり障りのないものになってしまうのではないかという悪い予感もしていたのだが…。デヴィッド・シルヴィアンとフェネスがサウンドトラックを担当しているということもあり、とにかく贅沢な出来の映画になっていたことは確かである。

映画の内容について述べる。映画は列車客室のシークエンスをオープニングとエピローグに配置して、これにより12のシークエンスを挟み込むかたちで構成されている。この12のシークエンスには、それぞれ1931年から1963年までの年度が設定されており、それぞれのシークエンスの冒頭にはその年を象徴する社会的な出来事に関わる引用音源がコラージュされている。これら全てのシークエンスのなかにシャーリーという名前の女優が登場し、彼女の内面的なモノローグによって、それぞれの時期を生きる女性の人生の瞬間が表現される。

さて、ドイチュは膨大なファウンドフッテージの使用によって映画に取り組んできた作家であることは既に述べた。今作でも、そのようなドイチュのコンセプトは敷衍されている——ただし、フィルムそれ自体の引用によってではなく、絵画の引用によって。この12+1のシークエンスは、実はエドワード・ホッパーの絵画を忠実に引用した画面構成によって撮影されている(そのために、平面的かつ色彩構成的なセットが組まれている)。広く知られた画家であるホッパーの描くアメリカの日常風景は、そのまま絵が描かれた時代に生きた人々の意識を代表するものであったといえる。その絵画のなかに描かれた、人々に広く共有された女性像を映画として語り直すことこそが、今作でのドイチュの意図であったといえるだろう。そう考えるならば、ドイチュは自分の作風を損なうことなく大きなバジェットの映画を見事に完成させたと評価すべきなのかもしれない。しかしながら、観客の意識のなかにおいて想起を引き起こすファウンドフッテージの特性に比べて、ホッパーの絵画を模したセットのなかで語る女性の姿は、あまりに饒舌過ぎるように思えた。「絵画に描かれた、ある時代の女性像についての映画」であったというのは理解できるのだが、果たしてそれは、ファウンドフッテージによる「映画についての映画」が持っていたような鋭い批評性を持ち得たのだろうか。

以下、曖昧な記憶を元にした各シークエンスのメモと元ネタの絵画。勘違いもあると思うので、参考程度に目を通して下さい。
・オープニング+エピローグ(『Chair Car』1965):列車の客室でエミリー・ディキンソンの本を読むシャーリー
・シーン1(『Hotel Room』1931):公演先のホテルでくつろぐシャーリー
・シーン2(『Room in New York』1932):窓の外から、室内でくつろぐ男性、その傍らに立つシャーリー
・シーン3(『New York Movie』1939):映画館の案内係を務めるシャーリー
・シーン4(『Office at Night』1940):オフィスにおける男性とシャーリー
・シーン5(『Hotel Lobby』1942):ホテルのロビーにいる老夫婦と、その傍らに座るシャーリー
・シーン6(『Morning Sun』1952):ベッドの上でタバコを吸うシャーリー
・シーン7(『Sunlight on Brownstones』1956):玄関先の階段手すりに腰掛けたシャーリー
・シーン8(『Western Motel』1957):男友達による写真撮影のモデルを務めるシャーリー
・シーン9(『Excursions into Philosophy』1959):ベッドに寝そべって本を読むシャーリー、途中で男性が部屋に入ってきてベッドに腰掛ける
・シーン10(『A Woman in the Sun』1961):ベッドから起き出してカーテンを開ける全裸のシャーリー
・シーン11(『Intermission』1963):劇場において客席で幕間を待つシャーリー、後ろの席に別離した男性の幻が現れる
・シーン12(『Sun In An Empty Room』1963):引っ越し作業を終えたシャーリー、ラジオを聴く

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