「クリストフ・ヒーマン 2013 Japan Tour」Christoph Heemann, Plastic Palace People, Celer @ Super Deluxe

ch2013

スーパーデラックスで8月20日に開催された、「Christoph Heemann 2013 Japan Tour」の東京初日を観に行った。事情があって、東京二日目(8月28日)のHollywood Dream Trip(クリストフ・ヒーマン+Celer)と、カフカ鼾(ジム・オルーク+石橋英子+山本達久)のライヴは観に行くことが出来なかったので、ここでは東京初日のみレヴューしたい。

東京初日の出演者および出演順は以下のとおり。
・Celer Solo
・Christoph Heemann Solo
・Plastic Palace People(Jim O’Rourke & Christoph Heemann)

まず最初は、東京在住のウィル・ロングによるユニット、Celerのソロ演奏。彼のことはよく知らなかったのだが、調べてみると膨大な量の作品をリリースしている多作な音楽家だった。彼はまず、演奏前に小型のスライドプロジェクターに明かりをともして、木々の向こうに広がる海岸(?)の静止画を会場壁面に小さく投影する。演奏に使用する機材は、古めかしいオープンリールのテープデッキとイコライザーというシンプルな構成。そのようにして開始された演奏は、シンプルなコンセプトでありながらも実に深みのある内容だった。テープ特有の靄に包まれたような音質のなかで、遠くから聴こえるような牧歌的なメロディが延々と反復される。そこにイコライザーの操作によって微細な変化を加えてゆく。このメロディは、どことなくHenryk Góreckiを思い出させるような素朴で「美しい」ものであり、静止した風景のイメージと相まって、聴衆の意識の奥底にある記憶を強く想起させるような、誘導的な効果を持つ。わずか30分ほどだったが、時間を忘れさせるような印象深い演奏だった。

続いて、クリストフ・ヒーマンのソロ演奏となる。ヒーマンは11年前にも、アンドリュー・チョークとジム・オルークからなる三人編成で、Mirrorとして来日ツアーを行っている。私は前回のツアーを京都メトロで観たはずだが、狭いクラブに満員電車並みに客を詰め込んでいたので音楽云々よりも体力的にキツかった思い出しかない。そんな訳でこの日は私にとって、ヒーマンの音楽に集中して向き合うことができる11年越しのリベンジの機会となった。ちなみに坊主頭に短パン姿のヒーマンは実に生活感があるルックスで、彼が演奏する音楽とのギャップがあって微笑ましかった。

さて、ヒーマンが演奏に使用する機材は、3台のCDJのみ。これらを小型の卓上ミキサーでミックスするという方法をとるらしい。もちろんCDJとはいえ、ヒーマンが所謂DJのようなミキシングを行うはずもなく、ライブの途中で時折音源CDを出し入れするのみだった。そのことから、全体的にはライブ演奏というよりも現代音楽系のテープ音楽・電子音楽の上演に近い印象を受けた。サウンドそのものは、Mirrorを思わせる直線的なドローンであるが、集中して聴取するならば、そのドローンのなかにシュルレアリスム的な異物感を身にまとった複数のレイヤーが潜んでいることに気が付く。こちらも30分ほどで演奏終了。

そして最後に、ヒーマンとオルークによる、Plastic Palace Peopleとしてのデュオ演奏となる。このデュオとしては既に2枚のアルバムがStreamlineからリリースされている。それらはオルークの個性であるミクロなレベルで循環するドローンの中に、ヒーマンらしい異物感を持ったサウンドレイヤーが注意深く重ねられた静謐な作品であった。私の勝手な予想では、恐らくこれらのアルバムに準ずるような音楽がライブで演奏されるものだとばかり思っていた。しかし、ちょっと違った。

デュオ演奏でヒーマンが使用する機材はソロの時と同じくCDJ3台、それに加えてオルークが使用する機材は、ノートPCとキーボード(マイク付属)という構成。その演奏内容は、全体としてはオルークの個性が表れたといえるドローンのなかで、ヒーマンが持ち込んだであろう異物感を持ったサウンドレイヤーや、ゆったりとしたギター演奏の録音、やけにノリがいいドラム演奏の録音などが、次々に現れては消えてゆくという展開だった。特に中盤でのドラムの登場には意外な感じもしたのだが、ヒーマンがアンドレアス・マーティンと制作した作品を思い起こせば、そんなに驚く程のことではないのかもしれないと思い直した。個人的にはPlastic Palace Peopleというよりも、奇妙なサウンドを駆使して独特の世界をコラージュしていたMirror以前のユニットであるH.N.A.S.を思い出すような、大変興味深いライブだった。

以下のリンクにジム・オルーク、クリストフ・ヒーマン、ウィル・ロングのメールインタビューがありましたので、一読を。
ジム・オルーク インタビュー
ウィル・ロング インタビュー
クリストフ・ヒーマン インタビュー

追記:ところで11年振りにクリストフ・ヒーマンを観ることによって、私は日本国内のノイズ・アヴァンギャルドと呼ばれる音楽をめぐる環境の、11年間の変化を再認識したような気がする。あの頃ならこの手の音楽(クラブミュージックと重ならないタイプのノイズ・アヴァンギャルド)を積極的に取り上げる音楽評論家もいたし、時には一般のサブカルチャー雑誌で大きく取り上げられることもあった。それに比べると、今はずいぶん落ち着いたものだと思う。実態に即した姿になったというべきか。

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