「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針」に対するパブリックコメント結果を読む

2013年10月11日、復興庁より「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針」に対するパブリックコメント結果が公表された。この日は、同法案方針についての閣議決定も行われた。以下、東京新聞での報道。

被災者支援法 基本方針を閣議決定 「対象切り捨てやめて」(東京新聞 2013年10月11日夕刊)
 「政府は十一日、東京電力福島第一原発事故を受けた「子ども・被災者支援法」の基本方針を閣議決定した。被災者や支援者ら約三十人は同日朝、官邸前で「基本方針は認められない」と抗議の声を上げた。
 被災者らは復興庁が方針案を示した八月末以降、「求めてきた内容になっていない」と見直しを要求。特に支援法が支援対象を「放射線量が一定基準を上回る地域の住民」と定めているのに、方針案がその基準を示さず、対象を福島県東部に限定したことを強く批判してきた。県外でも必要な健診や医療を受けられる仕組みが盛り込まれていないことも問題視してきた。
 被災者らは「意見公募に思いを乗せた人がたくさんいたのに、何の回答もないままだ」「東北や関東の高線量地域で暮らす子どもたちを切り捨てることは認められない」などと訴えた。」
引用元: 被災者支援法 基本方針を閣議決定「対象切り捨てやめて」:東京新聞

復興庁のウェブサイトでは、同法案に対するパブリックコメント4963件の取りまとめと、政府見解が読める。私も昼休みの時間を削って小一時間かけてコメントを書いたので、気になって読んでみた。結論としては、過去の政策を同法案に流し込むにあたって、苦しい説明を加えたものという印象。以下は復興庁の当該ページへのリンク。ここでは「「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針(案)」に対する意見募集で寄せられた主な意見に対する政府の見解(PDF)」のなかで私が気になったポイントを引用しながら考えを整理しておく。

・「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針」(案)に対するパブリックコメント結果の公表[平成25年10月11日](復興庁)
・「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針(案)」に対する意見募集で寄せられた主な意見に対する政府の見解(PDF)

・1「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的方向」(405件)では、法案理念が明示されている。その主な意見は「避難・移住の権利を認めること、放射線の健康への影響が十分に解明されていないことを基本的方向性に明示するべき」というものである。それに対する政府の見解は以下の通り。

「この法律は、基本方針を策定し、①支援対象地域に引き続き生活、②支援対象地域から移動して生活、③支援対象地域に帰還して居住というそれぞれの被災者の選択ごとに、どのような施策を講じるべきかを示しており、その際、その被災者の選択に応じて、適切に支援するということとされています。」

これは一見正しい理解だと思うが、このPDFを読み進めると、それが実際に取り入れられているとは、どうしても思えない。具体的には以下で述べる。

・2「支援対象地域に関する事項」(2707件)は「支援対象地域」と「準支援対象地域」に分ける根拠と、その数値的基準についてが問題とされている。その主な意見は「支援対象地域は追加放射線量年間1mSv 以上の地域にするなど、広く設定するべき」というものである。それに対する政府の見解は以下の通り。

「放射線による健康不安は個人によって様々であり、必要な支援内容を一律に定めることは難しいものの、福島県中通り・浜通りは、「相当な線量」が広がっていた地域であり、特に強い健康不安が生じた地域として考えられるため、「支援対象地域」と定めたところです。一方、この「支援対象地域」に該当しない地域においても、施策ごとに支援すべき地域や対象者を定めつつ、きめ細かく施策を実施することが重要であり、基本方針案においては、「支援対象地域」より広範囲な地域を支援対象地域に準じる「準支援対象地域」として定め、あわせて施策を講じる対象地域と設定することとしたものです。また、基本方針案において用いている「20 ミリシーベルト」は「政府による避難指示が行われるべき基準」であって、支援対象地域における線量の上限と位置付けられているものです(下限となるのが「相当な線量」となります。)。
なお、例えば原子力発電所のような放射線を使用する施設では、当該施設の外側で一般公衆が被ばくする放射線量について1 ミリシーベルトを超えないよう管理することを放射線を使用する事業者に求めており、これは放射線防護に関する基準の策定に当たって国際的に広く採用されているICRP勧告に基づくものですが、この水準は、健康に関する「安全」と「危険」の境界を示す線量であることから採用されているわけではなく、自然放射線源からの線量レベルの変動等を考慮して決められたものです。

ここでは結局のところ、支援対象地域を〈支援対象地域〉と〈準支援対象地域に〉分けた根拠は説明されていない。これでは線量が同一の場所があっても、支援を受けられる地域と受けられない地域が発生し、不平等が生じるだろう。また、年間1mSvというICRPの基準については「この水準は、健康に関する「安全」と「危険」の境界を示す線量であることから採用されているわけではなく、自然放射線源からの線量レベルの変動等を考慮して決められたものです。」と述べられているが、そのような理由付けは合意のスタートラインとしての「ICRP Publication 111 原子力事故または放射線緊急事態後の長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用」(社団法人日本アイソトープ協会, 2012)の総括部分には含まれていない。策定プロセスの話を持ち出すのは筋違いだろう。今回まとめられた「支援対象地域は追加放射線量年間1mSv 以上の地域にするなど、広く設定するべき」という意見は、事故以前の社会における合意ベースとしての1mSv/年を尊重すべきと主張しているのであって、「安全」と「危険」の境界として1mSv/年にこだわっているのではない。また、同文書の総括では項目〈o〉のなかで「汚染地域内に居住する人々の防護の最適化のための参考レベルは,このカテゴリーの被ばく状況の管理のために Publication 103 (ICRP、2007) で勧告された1〜20mSvのバンドの下方部分から選択すべきである。過去の経験は,長期の事故後の状況における最適化プロセスを拘束するために用いられるべき代表的な値は1mSv/年であることを示している。国の当局は,その時点で広く見られる状況を考慮に入れ,また復旧プログラム全体のタイミングを利用して状況を徐々に改善するために中間的な参考レベルを採用してもよい」と記述されている。この総括を参照するならば、政府は最初から1mSvとまでいかなくとも、中間的な値を基準として採用するべきであり、最初からバンド内の最大値である20mSvを選択している現状には疑問がある。

・37「住宅の確保」(765 件)は、支援のなかでも住宅に関わることが問題とされている。その主な意見は「応急仮設住宅について、新規受付再開や柔軟化、期限の延長をすべき」というものである。それに対する政府の見解は以下の通り。

「福島県への帰還等が始まっていること等から、国及び福島県から応援都道府県に対して、平成24 年11 月5 日に福島県外での応急仮設住宅の新規受付終了を要請し、平成24 年12 月28 日をもって受付を終了したものです。
<住み替え等の柔軟化>
応急仮設住宅の住み替えに関しては、災害救助法に基づく被災者の転居先としては、恒久住宅が想定されていること等から、基本的には難しいと考えています。ただし、福島県から他県に避難された被災世帯が福島県内に帰還される場合は、帰還促進の観点から、住み替えを可能とする取り扱いとしているところです。
<期限の延長>
平成27 年4月以降については、代替的な住宅の確保等の状況を踏まえて適切に対応してまいります。」

期限の延長が考慮されているのは良いが、「ただし、福島県から他県に避難された被災世帯が福島県内に帰還される場合は、帰還促進の観点から、住み替えを可能とする取り扱いとしているところです」という部分には若干疑問を感じる。これでは帰還を選択しない者との対応に不平等が生じるだろう。

・60「手続」(2,063 件)は、同法案の策定が居住者の意見を充分に聴取しないまま進められていることが問題とされている。その主な意見は「基本方針案策定等における被災者等の意見反映が十分でない」というものである。それに対する政府の見解は以下の通り。

「今回の基本方針案のパブリックコメントについては、期間が短いというご意見を多くいただいたことから、当初9月13 日までとしていた期間を10 日間延長し、9 月23 日までとしたところであり、また、基本方針案に関する政府主催の説明会を9 月11 日と13 日に、福島県及び東京都で開催したところです。本パブリックコメントに対しても4900 件以上のご意見をいただいており、これまでに寄せられたご意見を踏まえ、修正を行った上で基本方針を決定することとしたところです。これまで、被災者団体等が開催する会合に政府職員が参加するなどして、被災者の方々のご意見を伺ってきたところです。今後とも、被災者の方々を支援する民間団体とも協力しながら、ご意見を引き続き伺いつつ、必要に応じ、政府が責任を持って、施策の充実等を検討したいと考えています。」

実のところ、私が最大の問題だと思える部分はここである。見解のなかでは、今までの手続きが充分なものであったかのように述べられているが、現実には不充分である。「ICRP Publication 111 原子力事故または放射線緊急事態後の長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用」(同上)のなかでは、項目〈s〉のなかで「防護戦略およびより広くは復旧プログラムにおいて,被災した住民が効果的に関与できるように条件を確立し,その手段を与えることは,とりわけ規制レベルでは当局の責任である」と明記されている。政府がやったのは一方的な説明会に過ぎず、求められているのは居住・移住・帰還という立場の違いを問わない形での、被災した住民が主体となる防護と復旧プログラム策定への参加ではないだろうか。

とは言え、方針の閣議決定もされたことだし、もう何を言っても遅いのだろう。ICRPの1mSv/年という勧告を含め、事故以前の社会的合意は、これまで散々反故にされてきた。私は、事故以降今日に至るまで、事故以前の社会的合意が軽視されるという状況に納得がいかなかったのだと思う(原発事故を他の公害と併置すれば、問題は分かり易いだろう)。その合意とは、人々の長年の経験と利害関係の調整によって形成されて来たものであったはずなのに。次の原発事故が何年先かは分からないが、蓋然性がある以上、それは必ずやって来る。その時にはもう少しマシな対応がなされることを願う。薦めに応じてパブコメを書いて出してくれた友人知人に感謝。

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