マイケル・スノウ+恩田晃+アラン・リクト @ 渋谷WWW

11月5日・6日の両日、マイケル・スノウ+恩田晃+アラン・リクトのコンサートが、サウンド・ライブ・トーキョーのプログラムとして、渋谷WWWにて行われた。遠方なのでサウンド・ライブ・トーキョーのプログラムを聴きに行くのは初めてであるが、この演目なら駆けつけない訳にはいかない。

日本においてマイケル・スノウは、イメージフォーラムが『波長』と『←→(バック・アンド・フォース)』の16mmプリントを貸し出していたので、主に実験映画の作家として知られている。その一方で、国内の美術の文脈においては、原美術館で開催された個展を唯一として、それ以外の場所で取り上げられることはなかったように思う。国内の美術館の学芸員にしてみれば、実験映画作家として知られていたスノウは、自分たちのジャンル外の作家として映ったのだろうか。そういった日本の美術業界特有の映画・映像に対するねじれは長く続いたが、ようやく近年になって、「ヨコハマ国際映像祭」や、国立国際美術館「中之島映像劇場」などで、スノウの映像作品を取り上げるケースが散見されるようになる。しかし、それでもまだ、スノウの音楽関係の仕事に光を当てるところまでは行ってなかった――せいぜい「ジャズミュージシャン」という肩書きが紹介文の末尾に記述されるくらいに留まっていた。それが今回、まさかの数十年振りの来日である。本当にサウンド・ライブ・トーキョーのプログラマーには感謝したい。スノウの音楽の仕事にはフリージャズ/フリーインプロといった即興演奏者としての活動と、疑似民族音楽やサウンドインスタレーションなどのサウンドアート寄りの活動という二つの側面があるが、今回のコンサートは前者に光を当てるものとなっていた(後者については、11月3日にICCで行われたトークイベントの中で、学芸員の畠中氏からフォローがなされていた)。

今回の共演者についても述べておく。アラン・リクトはフリーインプロのギタリストで、1990年代から活動しており、ローレン・マザケイン・コナーズとの共演作が多数ある。恩田晃は、1990年代にはオーディオ・スポーツとしての活動で知られ、後にカセットテープによる、フィールド・レコーディング音源を使用したフリーインプロに転じた作家である。スノウを含め、この三者は2000年代中頃から度々共演を重ねており、2008年には『Five A’s, Two C’s, One D, One E, Two H’s, Three I’s, One K, Three L’s, One M, Three N’s, Two O’s, One S, One T, One W』をリリースしている。


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11月5日
・マイケル・スノウ ソロ
・マイケル・スノウ+恩田晃+アラン・リクト トリオ

マイケル・スノウ ソロ:
スノウの演奏するピアノにマイクは立てられておらず、生音のみである。まず、第一セット。前方の指の動きが見える位置に席を取ったが、85歳という年齢を感じさせない、滑らかな即興であった。軽やかに弾かれる音が空間に敷き詰められるが、フリージャズ的な熱さは希薄であり、どことなく上品なサウンドとなっている。続く第二セットは、右手と左手の音域を対比させたり、左手で演奏しながら右手をピアノ本体の中に差し込んで、ピアノ線を押さえて反響をコントロールしたりするなど、ピアノの構造を前面に出した演奏を聴かせた。最後は既存のテーマに収斂するという、フリージャズの典型をなぞる余裕を見せて終了。

マイケル・スノウ+恩田晃+アラン・リクト トリオ:
後半はトリオによるロングセット一本のみ。スノウはCATシンセサイザーを使用(ピアノにはマイクも立てられていたのだが、最後に遊びで一音弾いただけで、ほぼ使用されず)。リクトはギターとエフェクター。恩田はテープ(サンプラーも使用していたかもしれない)に加えて、シンバルやガラス瓶など。全体的な構成は、リクトによるE-Bowやエフェクターを駆使したギタードローンを下地としながら、その上で、スノウがひたすらシンセサイザーのつまみを操作して電子音を発し続けるというもの。そして恩田は、スノウに対峙するようにして、テープによって環境音や人声などのレイヤーを積み重ねてゆく(要所では、シンバルなどによる破砕音も加える)。フリージャズ的な残滓が全くない集団即興によるドローンとなっており、なかなか聴き応えがあった。


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11月6日
・恩田晃+アラン・リクト デュオ
・マイケル・スノウ+恩田晃+アラン・リクト トリオ

恩田晃+アラン・リクト デュオ:
このセットでのリクトの演奏は、ドローン主体だった昨日とは違って、通常のギター演奏なども取り入れたものになっていた。それに対して恩田は演奏の下地を支えるような役目に回る。すなわち、昨日とは役割が逆になったような印象であった。ギターとテープという組み合わせが、なかなか合わせ難いところがあるのかもしれないが、ギター演奏のバリエーションを模索するような展開だった。

マイケル・スノウ+恩田晃+アラン・リクト トリオ:
この日は長めのセットを一本と、短いセットを二本演奏した。使用楽器は昨日と同じだが、スノウは最初からピアノも使用していた。第一セットは、まずピアノのスリリングな即興から開始される。しかし、すぐにスノウはシンセサイザーに向き直り、昨日と同じ編成となる。やがて、恩田がノイジーなサウンドをテープから繰り出し、スノウも激しい電子音を発しはじめ、リクトのギターも重なりながら、勢いのあるハーシュな展開へと向かう。ドローンではない、各人のサウンドが縦横無尽に運動する素晴らしい演奏だった。続いて第二セット。恩田のテープ(サンプラー?)から繰り出される間欠的なノイズに、スノウの細分化されたピアノが絡まり合う。リクトはシールドのプラグを素手で持って接触不良音を出すなどする。最後の第三セットは、恩田のテープ(サンプラー?)から繰り出されるシンプルな電子音に、スノウの流麗なピアノが重なる展開だった。

二日間を通してトリオの演奏を観た訳だが、全体として恩田のテープによって場面が設定される傾向があり、スノウがピアノとシンセサイザーの演奏によってそれに対応し、リクトが空白を埋めるようにして全体を背後から補助しているような印象を受けた。音楽としてはテープと電子音を中心としたフリーインプロの範疇に収まるものだったが、スノウの即興演奏者としての技量、表現力は充分に確認することが出来た。他方で、スノウがこのようなフリーインプロと併行して、メタ音楽とでもいうべきサウンドアート寄りの作品も制作していることは、忘れてはならないだろう。このようなフリーインプロの演奏もスノウが楽器を操作しているというだけで、単なるフリーインプロではなく、ある条件下での音楽形式のテストのように思えてくるのだ。

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