Jim O’Rourke “two sides to every story”@草月ホール DAY1

JO_twosides
Jim O’Rourke “two sides to every story” DAY2
ジム・オルーク 東京・草月ホール 10月25日
・Program:String Quartet
・Program:Simple Songs 全曲LIVE

今回のコンサート「two sides to every story」はオルークの13年ぶりのヴォーカルアルバムである『Simple Songs』の発売に合わせたものと言えるが、この二日間のプログラムは、明らかに2013年にスーパーデラックスで開催された「ジム・O 6Days」を下敷きにしている。「ジム・O 6Days」は、テーブルトップギターによるインプロヴィゼーションや、電子音楽、テープ音楽、デポール大学時代の現代曲、『Happy Days』+『Bad Timing』の再現ライブ、そしてポップスやフリージャズに至るまで、振れ幅の大きいオルークの音楽的な引き出しを全て開いたような内容であった。そして「ジム・O 6Days」での試みを踏まえた上で、オルークは「two sides to every story」の中で、「1:現代音楽(電子音楽)」、「2:ポップス」、「3:カントリーブルースとミニマルミュージック」、「4:フリージャズ」という四つのテーマを各プログラムで提示したのだといえる。

大まかに確認しておくとオルークの音楽的なバックグラウンドは、フランク・ザッパを初めとするポピュラー音楽を除くと二つある。ひとつは、まだ十代の頃にデレク・ベイリーとの個人的な知遇を得ることから始まったヨーロッパのフリージャズ/フリーインプロヴィゼーションからの影響。もうひとつはデポール大学で学んだ現代音楽からの影響である——ただし後者は、オルークの中にアカデミックな現代曲への反発を生じさせるものであり、彼を非アカデミックでアンダーグラウンドな実験音楽やノイズミュージックの世界に向かわせたと言う意味で、反影響というべきかもしれない。そうしてオルークは、90年代にはフリーインプロヴィゼーションに取り組む一方で、各国のノイズレーベルからも精密に作り込まれたテープ音楽をリリースし、電子音楽とミニマルミュージックとカントリーブルースを高い次元で再構築したGastr Del Solでの活動を行うようになる。Gastr Del Sol解散以降は、ソロとしてヴォーカルアルバムをリリースしたり、プロデュース業や映画音楽制作に取り組むなど更に活動の幅を広げているが、この辺りはわざわざ説明するまでもないだろう。

このようなオルークの音楽的な経歴を考えると、「現代音楽(電子音楽)」、「ポップス」、「カントリーブルースとミニマルミュージック」、「フリージャズ」という先述の四つのテーマは、実に的を射たものであり、今回のコンサートは、ジム・オルークという音楽家の多面性を的確に伝えることのできる充実のプログラムになっていたのではないかと思う。


・Program:String Quartet
DAY1の最初は「現代音楽(電子音楽)」にあたるプログラムであり、ここではストリング・カルテットのために作曲された3作品が演奏された。ストリング・カルテットは、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロというオーソドックスな編成である。そして、並んで座った四人の演奏家の前に、観客に背を向けてオルークが腰掛ける。オルークはノートPCを開いて電子的な音響のコントロール——想像になるが恐らくリングモジュレーターによるキャリアの掛け合わせと、演奏者への指示を行っていた。これらの作品は、一聴するとデビッド・ジャックマン(Organum)やリチャード・ルペナス(The New Blockaders)の様なノイズミュージック、あるいはトニー・コンラッドのドローンの様に聴こえるかもしれないが、電子的な音響のコントロールが楽曲のコンセプトになっているという点において、言葉通りの意味で電子音楽作品である。いずれも楽曲タイトルは不明。

一曲目:18分程度の作品。まず第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが演奏を開始し、しばらくしてヴィオラ、チェロが加わる。それによって、4本の弦楽器による狭い音程を移動するドローンが続く。4本の弦楽器によるドローンは、リングモジュレーターによって、本来の楽器の音域外のサウンド(特に低音域の電子音)を発生させる。ある程度原型を保っている弦楽器によるドローンがあまり動かないのに対して、これらの音域外のサウンドは、上昇下降や揺れなど、さまざまな変化を見せてゆく。このことからキャリアとして掛けられる周波数が、事前にオシレーターによって「作曲」されていることが分かる。見た目には単調な演奏に見えるが、このドローンの内部には極めて複雑な構造が形成されている。

二曲目:12分程度の作品。まずチェロから断片的なフレーズの演奏を開始する。続いてヴィオラ、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリンも同じように断片的なフレーズを弾き始める。これらのパーツは、別々のものとして進行してゆくが、やはりリングモジュレーターによって本来の楽器の音域外のサウンドが生じている。それによって、まるで50年代の初期電子音楽のように、奇妙な電子音となった弦楽器のサウンドが断片的に現れては消えてゆく。

三曲目:9分程度の作品。紫の照明がステージの幕を照らすなかで、全演奏者が一斉に単音のドローンを弾く。そして、しばらくすると演奏者が楽器から手を離してゆく。だが、この単音のドローンはループ処理によって引き伸ばされており、演奏者が演奏を止めた後も持続する。このドローンには、例によってリングモジュレーターによる処理が行われているのだが、そのアプローチは上記2曲とは少し異っているように思えた。曖昧な言い方になるが、束状のドローンを全体的にまとめて、徐々に推移させてゆくような感じである。長い時間をかけて段々と音量が小さくなり、ドローンが消失したところで楽曲は終了した。


・Program:Simple Songs 全曲LIVE
次は「ポップス」にあたるプログラムであり、新作『Simple Songs』の楽曲が、ジム・オルークバンドによって全曲演奏された。バンドの編成はオルークによるギターとヴォーカルの他、ギター、ベース、ドラム、ピアノ兼キーボード、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリンという総勢7名。程良くミニマルな構造だが、プログレを思わせる複雑さも持っている楽曲を、情熱的な演奏で聴かせてくれた。アンコールでは「昔のバンドのメンバーとやります」と言って、Wilcoのグレン・コッチェ、そしてダーリン・グレイを呼び出し、2ndヴォーカルアルバム『Insignificance』から「Therefore, I Am」を演奏した。

確かに素晴らしい演奏であったが、将来ライブ盤などがリリースされて、このプログラムだけ取り上げて聴く人がいた場合、オルークを単なるポップミュージシャンとして誤解する人もいるかもしれない。しかし、恐らく最も大切なのは『Simple Songs』をポップスとして楽しむだけでなく、オルークが持っている他の音楽的側面との関連で聴き、そこに共通するものを見出すことだろう。勿論そんなことは、この日、草月ホールにいた観客たちにとっては、あまりに自明のことである。

追記:グレン・コッチェのインスタグラムに写真がありました。

Advertisements

One thought on “Jim O’Rourke “two sides to every story”@草月ホール DAY1

  1. Pingback: ジム・オルーク @草月ホールのライブの思い出

Comments are closed.