「グリーンランド」 中谷芙二子+宇吉郎展@銀座メゾンエルメス フォーラム

「グリーンランド」 中谷芙二子+宇吉郎展
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
会期:2017年12月22日~2018年3月4日
http://www.maisonhermes.jp/ginza/le-forum/archives/405275



現在、銀座のメゾンエルメス フォーラムにて中谷芙二子+宇吉郎による展覧会「グリーンランド」が開催されている。中谷芙二子は、「ビデオひろば」に参加して最初期のビデオによる表現を開拓した先駆的なビデオアーティストであり、E.A.T(Experiments in Art and Technology)との協働による日本万国博覧会ペプシ館(1970)に始まる霧の彫刻でも知られる芸術家である。そして雪の結晶の研究で著名な科学者であり、岩波映画製作所の設立にも深く関わった中谷宇吉郎は、芙二子の父親である。この展覧会は、科学と芸術という異なる専門に取り組んできた親子の仕事を併置して、両者に通じ合うものを浮かび上がらせるものとなっている。

エレベーターを降りて展示フロアに足を踏み入れると、そこには芙二子がアメリカ留学中に描いた抽象的な油彩画が二点掛けられているが、テクノロジーと深く関わった中谷の原点が、伝統的な絵画にあるというのは興味深い。そして、右の展示室に進むと、そこには1957年から1960年にかけて行われた、宇吉郎のグリーンランド調査に関わる写真や資料が展示されているほか、芙二子が1994年にグリーンランドを訪れた際のビデオ映像がプロジェクションされている。

そして、この展示室の奥の開けた空間には金属製の機材が設置されている。これが今回の展示の中心となる『Glacial Fogfall』(2017)のための噴霧器である。この噴霧器からは定期的に大量の霧が噴出し、メゾンエルメスの内部空間を濃霧で満たす。メゾンエルメス外壁のガラスブロックは氷を思わせる質感を持っているが、そこから芙二子は今回の展覧会のタイトルである「グリーンランド」を着想したらしい。観客は非日常的な濃霧のなかで、この環境と、自分の身体との関係性を探ることになる。



このような観客の身体を内包した環境への関心は、芙二子のビデオアートのコンセプトとも共鳴している。左の展示室では、宇吉郎の用いた器具と研究成果である写真やファイルと共に、芙二子が1970年代に用いていたポータパック(ビデオカメラとレコーダーが分離した、初期の携帯型ビデオ機器)と、ビデオ作品『モナリザのしっぽ』(1974)と『風にのって一本の線を引こう』(1973)が展示されている。前者は、当時大きなブームとなった東京国立博物館での名画『モナリザ』の展示を観るため、長い行列に並んでいる人々にインタビューして周り、その様子を捉えた作品である。これは、『水俣病を告発する会―テント村ビデオ日記』(1971~1972)に始まる、ビデオによって社会的なコミュニケーションを媒介するというコンセプトに連なる作品だといえる。後者は、1973年に京都で開催された「映像表現’73」に出品されたビデオインスタレーションための映像であり、蜘蛛が巣を張る様子が長回しで撮影されている。この二作品は、共に観察対象となる環境をビデオによって媒介する(=可視化する)という性質を持っているが、それは芙二子の他のビデオ作品にも共通するものだといえる。その他、展示室の奥のモニターでは、過去に行われた霧の彫刻の記録映像が上映されており、芙二子の創作活動を全体的に捉えた、バランスの良い展示になっていた。

科学者と芸術家という異なる専門に進んだ親子であるが、その環境への関心と観察眼は深く通じ合っていたことがよく伝わる、素晴らしい展覧会だったと思う。ガラスブロックを透過した外光との調和が見事なので、可能であれば晴れた日の昼間に観に行くことをお勧めしたい。

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