Alvin Lucier & Ever Present Orchestra@Super Deluxe

Alvin Lucier & Ever Present Orchestra
日時:2018年4月3〜4日
会場:六本木Super Deluxe

アルヴィン・ルシエが、自身の作品を演奏するエヴァー・プレゼント・オーケストラと共に四月上旬に来日して、京都・東京にてコンサートを行った。ルシエはアメリカ実験音楽の中心的な作曲家であり、デヴィッド・バーマン、ロバート・アシュリー、ゴードン・ムンマとのソニック・アーツ・ユニオンの活動などを通して電子音楽の歴史に大きな足跡を残してきた。ルシエの作品には音に関する現象を観測するという、マテリアリスト的な傾向があり、それはインスタレーション作品を含めて、この作家の個性になっている。それは現象として立ち現れるため、ある意味分かり易いものであり、現代音楽という括りを超えて幅広い聴衆に共有され得るものだと思う。私は、六本木Super Deluxeでのコンサートを両日観に行ったのだが、今回の招聘元はいわゆるアカデミックな現代音楽の関係ではないようで、京都では西部講堂でコンサートが行われたらしい。良い広がり方だと思う。ちなみに、高齢のため今回が最後の来日となるそうだ。



Day1(4月3日)
1:Ricochet Lady(2016)
会場である地下空間の壁際の角にグロッケンシュピールが置かれており、演奏家は観客に背を向けて、機械のように正確な演奏を繰り広げる。楽曲自体はクロマティック・パターンを反復するという単純なものだが、連打される金属音が空間のなかで強烈な反響を発生させる。

2:Braid(2012)
4人のギター奏者がテーブルにエレキギターを置き、E-bow(電気振動により持続音を発生させる、エレキギター用の道具)を使用することによって、持続音を発生させる。ここに3名の管楽器奏者による、引き伸ばされたストロークの持続音が加わる。それによって周波数の干渉が至る所で発生する。今回の公演で演奏されたルシエの近年の作品は、基本的にこのような周波数の干渉によるうねりを聴き取るものであった。ちなみに、一昨年同じ会場で聴いたジェームス・テニーの作品もまた、周波数の干渉をテーマとするものだった。この両者を比べると、テニー作品の演奏はかなり厳格で、全ての楽器奏者がチューナーを見ながら周波数を制御していたのに対して、ルシエ作品の演奏はギター奏者のみがチューナーを使用して周波数を制御しており、管弦楽器に関しては、人為的な揺らぎを許容しているようにみえた。ピアノ奏者も演奏していたが、微音でよく分からず。

3:Two Circles(2012)
4人のギター奏者がテーブルにエレキギターを置き、E-bowを使用することによって、持続音を発生させる。これに、1本のサックスと2本のヴァイオリンという編成の、ふたつのグループが加わる。このふたつのグループの演奏家たちは、それぞれが違う長さ(10分30秒、7分31秒)で音程を循環させる。それによって、ダイナミックな周波数のうねりが生まれる。ピアノ奏者も演奏していたが、微音でよく分からず。

4:Semicircle(2017)
グロッケンシュピール以外の全演奏者(ヴァイオリン4本、管楽器3本、E-bow&エレキギター4本、ピアノ)が登場し、秒刻みで打たれるピアノの単音によって誘導されながら、緩やかな持続音を重ね合わせる。18分に及ぶ楽曲の中で、豊かな周波数の干渉が生み出される。

5:Bird and Person Dyning(1975)
近作で構成された前半に対して、休憩を挟んでの後半は、ルシエの代表的な電子音楽作品の再演である。この日の演目である『Bird and Person Dyning』は、イタリアの個性派レーベルであるCramps Recordsの現代音楽シリーズnova musichaからリリースされた作品であり、ノイズ/インダストリアルの先駆的作品だといえる。ノイズの文脈では、フィードバックノイズとアジテーションの混成によるスタイルはパワーエレクトロニクスと呼ばれるのだが、そのなかでも、単調な電子音に金切り声を混ぜ合わせたWhitehouseの表現形式などは、本作から相当影響を受けているだろうと想像する。
さて本作の構造だが、まず鳥の声によく似た電子音が、会場中央に立てられたマイクスタンド上の小さなスピーカー(上記写真の金色の球体)から流される。そして、バイノーラルヘッドホンマイクを身につけたルシエ本人が会場を移動して、会場のメインスピーカーからフィードバックノイズを発生させる。バイノーラルヘッドホンマイクとは、両耳の部分にマイクを取り付けた機材で、臨場感ある録音を可能とする(イヤホンも内蔵されており、着用者は録音しているサウンドのモニターもできるようだ)。このマイクには指向性があるので、メインスピーカーのフィードバックは、デリケートかつダイナミックな変化を持つものとなる。そして、この強烈なフィードバックノイズが鳥の声との間でヘテロダインを引き起こして、幽霊のような鳥の声を発生させる。ルシエは高齢のため杖をついていたのだが、会場後方から前方までの数メートルの距離をゆっくりと歩いて、幽霊のような鳥の声が発現する場所を探していた。強烈に刺激的で、非日常的な体験だった。



Day2(4月4日)
1:Criss-Cross(2013)
向かい合ったギター奏者2人(うち一人はオレン・アンバーチ)が、E-bowを使用することによって、テーブルに置かれたエレキギターから持続音を発生させる。2人は演奏をするというよりも、周波数を制御することに徹しており、チューナーを注視しながら、時折ペグを回して微調整を行う。そして二つの持続音は干渉を引き起こしながらもつれ合う。もともとは、オレン・アンバーチとステファン・オマリーのために作曲された作品らしい。

2:Hanover(2015)
4人のギター奏者が、E-bowを使用することによって、テーブルに置かれたエレキギターから上昇/下降する持続音を発生させる。そして、ピアノ奏者が点描のように音を置いてゆくなか、ヴァイオリン3本と管楽器2本、弓弾きによるグロッケンシュピールが緩やかな持続音を奏で、周波数の干渉を引き起こす。

3:Tilted Arc(2018)
全演奏者(ヴァイオリン5本、管楽器2本、E-bow&エレキギター4本、ピアノ、弓弾きによるグロッケンシュピール)による大編成の作品。まずグロッケンシュピールの弓弾きと、ヴァイオリンによる持続音が奏でられる。そして各楽器奏者がこれに加わり、緊張感のある空間のなかで周波数の干渉が現れては消えてゆく。音数が多いので、この方向の集大成といった感じで圧巻だった。

4:I Am Sitting in a Room(1969)
この日も後半は、ルシエの代表的な電子音楽作品の再演である。この日の演目である『I Am Sitting in a Room』は、空間の音響特性を取り込んだコンセプチュアルな作品である。まず、椅子に腰掛けてマイクに向かったルシエは、自らの著書『Chambers』の一節を読み上げる。この音声は、その場で繰り返し録音され、繰り返し再生されてゆく。この再録音のプロセスの中で、オリジナルの音声は空間の影響を受けながら、最終的に滑らかな波形を持った持続音に還元される。よく知られた作品であるが、実際に演奏を聴いてみると、音声の平滑化が3回目の再録音のあたりで顕著に表れていたのが意外だった(それが、この会場の特性なのかどうかは分からないが)。また、途中でルシエが咳払いをしてしまい、それも包括しながら波形が平滑化されてゆくというアクシデントもあった。この作品によく似合う出来事だったといえるだろう。

追記:今回のコンサートは、ルシエの集大成となる4LP+CDボックス『Illuminated by the Moon』のリリースに合わせたものでもある。ボックスは下記にて購入可能。なお購入者は、シリアルナンバーをレーベルに伝えることで、4LPのオーディオファイルをダウンロードすることができる。
http://www.zhdk.ch/en/lucier

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